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「数学的にありえない」 [reading]

 面白かった。と思う。実は半分分ってない。あまりにピコった話で。話の妥当性が飲み込めなかった。そもそも私は計算が出来ないんだよ。もっかい読んでみた方がいいかしらと思うくらいだけど、他に読む本もたくさんあるし、取り敢えず読み終わったので整理の意味も込めて書いてみる。

 一言で言えば、スーパーナチュラルなものを数学的に立証して見せようと言うことなんだろうけど、でも、そもそも、脳みそのある部分を突っつくと未来が見えるという理屈が理解できなかった。まあ、そこにユングの集合的無意識を持ち出してくるんだけど。
 この時点でいきなり萩尾望都の「バルバラ異界」とガッツリつながってびっくりした。このキーワードが飛び出してきた途端、この2つの作品の共通点や比較できる点がいちいち目に付き始めてびっくりしどおしだった。
 まず未来を予見する能力の顕在化の方法は「バルバラ」と「数学的に」では違う。「バルバラ」では、ある血統の人間が心筋に含まれるたんぱく質を摂取すると(食べると)その能力が目覚めることになっていた。「数学的に」でもその能力は単純に特異な体質(側頭葉の出来が普通と違う人)に起きることになっていて、癲癇はその能力が使われている結果として生じる副作用ってことになってたんだけど、その特異な人はその能力を現実に意識できていないし、具体的にどういう理由でその能力が開花するものなのかについても説明はなかった。つまり、普通そういう能力を持った人が癲癇を起こした後で意識を取り戻してもその間に見たと思われる集合的無意識のことは忘れちゃってるんだけど、ケインはたまたまお金目当てで参加した実験で飲まされた薬がトリガーになって、失神なくしてその能力を発揮できるようになったというお話だった。でもねえ、そうすると、ジャスパーが「声」を聞ける理由が付かないんだよね。だって、ジャスパーは薬を飲んでいなくてもずっと「声」が聞こえていたわけでしょう?ジャスパーの「声」ってデイビッドで言うところの「すべてのとき」なんでしょう?なんか、こんだけ空を掴むような現象をなんだかんだ小難しい理論を繰り広げて理屈付けようとしているくせに、その辺は結局個体差みたいなファジーなことになっていたような気がする。
 統合失調症の人が「声」みたいなのを聞くって言うのはこれ読んではじめて知ったんだけど、でも「バルバラ」でも人の脳のどこかに神の座があってそこでメッセージを受け取るようになっているのかもしれないということは言っていたし、そのほかいろいろ出てきた類似点を考えると、やっぱりこの2つの作品は相当近い理解のうえに立っているんだろうなと思う。

 なんかもう量子力学やら心理学やら哲学やらがごった煮のてんこ盛りな上に、ストーリーとしてのタイムフレームが短いわ、登場人物が多いわで、我ながらよくここまで着いて来れたと思うくらいプロットとしては乱暴に出来てるんだけど、つまり、相対性理論と集合的無意識を合わせると未来を自分の望むようにも出来るということを言いたかったらしい。多少聞きかじってはいたけれど、この二つの理論が相成れるものだとはついぞ思わなかったんでびっくしりした。 この本が面白く読めたのはこんなに右脳な私にもここに出てくる小難しい理論の大くにイカチン知識があったからだろうと思う。そうでなかったら今以上に????な感想だったと思うよ。でも、その情報源のすべてが漫画か映画なんだけどね。そうそう、この話の中ではこの能力を持てるのはでも、右側頭葉が発達している人なんだって。

 ユングは、人は無意識では一つにつながっていると考えていた。起きているとき、つまり自分が意識できる自分は、自分の本質の一部、氷山の一角で、その意識の深層である無意識の領域では人は他の人たちともつながっていて、つまり共通の無意識、本質、本能みたいなものを共有していると考えていた。個で存在するを超越したもしくは包括した一つの存在で、かつまた思考は光よりも早く活動できるものであるから、
従って、この理論で行くと、無意識では世界は一つのつながった命ということになる。そこには全てが丸見えだ。普段は隠れいていること、例えば他人の欲望や過去とか、自分の起きてるときには理解しようのない難しいこともすべて分ってしまう。なぜなら無意識の世界ではつながっている人の持つ「すべて」を共有できるから。そこでは起きて個であるときには持ち得ない知識でさえあたかも自分が体得しているかのように理解できる。で、デイビッドはここで得られる情報を利用して自分の望む将来を実現させようとする。パズルみたいなもんだ。自分の駒を向こう岸まで運ぶにはどのブロックをどう組み合わせればいいのか。それがどうして数分、数秒意識をそっちに持っていくだけで出来るのかというと、思考は光よりも早く活動できるからだって。
 つまり、一言でまとめると、人間の脳みそって思ったよりいろんなことが出来るということを言いたいんだと思う。

 ただし、人のすべての欲望が覗けたからって、必ず自分の思い通りになるわけではない。なぜなら望みをかなえる方法はいくつもあって、それを阻む不確定要素もそれだけあるってことだから。だからね、ここでこんなこと言うと話をひっくり返しそうで気が引けるんだけど、いくら無意識に入り込むことが出来るだの、未来を操ることが出来だの言っても、究極的には「未来は観察されるまで確定しない」と言うことらしい。なんかすごい落とされようだけど真実だからしょうがない。「シュレーディンガーの猫」を持ち出して一生懸命話してたよ。この辺は図らずしも「イノセント」のときのお勉強が役に立って私としても満足だった。うむ。
 その辺は萩尾望都も理解していたのか、「バルバラ」でも望む未来に到達するパターンを見つけ出せるまでに何度も失敗するケースを経験させてた。そして、「バルバラ」の最後でとうとう自分の生きることが出来る未来を見つけた16歳の青葉が急速に老いて死んでしまったのはきっと「数学的に」でも言ってるように、多分、相対性理論が顕在化した結果なんだろう。まだ釈然とはしないけどそうなんだろうなということは見当がつく。「バルバラ」のラプラスの魔は青葉なんだけど、彼女は9歳のときから集合的無意識にアクセスしっぱなしになっていて、つまり現実世界では寝たまま起きない人みたいになっていたのね。現実の時間にしてみれば7年間だけど、その実その何倍もの時間を青葉は集合的無意識の中で過ごしていたから、彼女が自分の望む将来に集合的無意識をセットすることに成功して、現実に戻ってきた途端、つまり目を覚ました途端浦島太郎みたいなことが起こったんだ。ああ、そうすると浦島太郎って相対性理論のことを話してたのか。はあー。今気が付いた。

 「数学的に」は超常現象を現実に認められている理論で論破しようとしてるんで、それもかなり限られた時間の中で。なんで、ストーリー展開の速度に合わせて言ってる内容を飲み下すのがすごく難しいんだけど、でも読んでいて問題に感じたのはそんなところじゃなかった。だって、それは純粋に私のスキル不足のせいでしょ?
 じゃなくて、私が純粋に作品のプロットとして一番腑に落ちなかったのは、「すべてのとき」が最終的にジュリアに帰結しているように見えること。主人公が「すべてのとき」に勝手にジュリアのイメージを植えつけているっていうならまだしも。だけど、あのラストのオチを読む限りその線は薄いと思う。どうしてもジュリアの個人的な存在が浮き上がってきてしまう。だけどそうするとね、どう考えてもそれまで一生懸命説明付けようとしていた「すべてのとき」と話が違ってきちゃうじゃん。これじゃ「すべてのとき」なんかじゃない。「ジュリア」じゃん。私はジュリアこそ造られた「すべてのとき」で、完全な媒体だと思ってたのに。エピローグでドクが呪い殺されたとでも言わんばかりの交通事故に遭う場面を読むに到っては絶句。それ本気で言ってんの?これってだってひょっとして心霊現象もラプラスの魔で証明できると言ってるの?ラストのここを読んで初めてピンときたんだよね。それまでは「匂い」に関するエピソードは全く気にしてなかったんだけど。死後の世界のイメージが強かったから。だけど、そのドクが車にはねられるシーンではたと気が付いたのよ、キングの話なんかにも出てくるけど、超常的な現象を体験する直前にはよく特定の匂いがかがれるって。「シャイニング」に出てくるコックのおじさんは必ずオレンジの匂いをかぐ。そうじゃん、それを言いたかったんだと悔しい思いがした。ただ、問題なのが、死んでも集団的無意識にアクセス出来んのかってこと。集団的無意識にアクセスするには思考する生きた脳みそが必要なのでは?それとも霊体は実体を持たない「思考」そのものだとでも言うつもりか。この本は霊体をそう言う風に定義付けてるの?幽霊は電気?昔童謡だと思って歌ってた内容は真実だったのか?
 ね?すごい混乱するでしょ?
 も一つ加えて言うと、この能力者に共通してかがれる匂いだけど、ジュリアは死ぬ前から嗅いでいたんだよね。それも???でしょ?

 まあ、とにかく万事がそんな調子で???と思っているうちに物語りはハッピーエンドに明けてしまっているのでした。
 ただタイトルの「数学的にありえない」だけど、確立ってそれがどんなに小さくってもありえる数字を出してるわけだから、「数学的にありえない」なんてことはないと思うんだよね。数学的にありえる数字を出してるんだろうがと思うのは私だけか。そもそもアホほど人のフンドシ持ち出してありえるってことをムリクリ説明付けようとしている話なんじゃないのかと思ってしまう。

 でも、総じて言えば、ダン・ブラウン以来のノウハウ本で読んでて楽しかった。外国にはこういうエンターテイメントな作品多いのに、日本人でこういうの書ける人っていないよねぇ。

数学的にありえない〈上〉 数学的にありえない〈下〉


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