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「まほろ駅前多田便利軒」 [reading]

 すごい面白いかった。こんなにエンターテイメントな話を読んだのは久しぶりだな。ストーリー性とかプロットとかキャラクターとかよく考えられていて、それを上手に楽しく読ませるようになっていたと思う。しかもなんだか知らないけど主人公がすごいいい男で驚いた。見た目はどうだか分らないけど、そんな奴いねえっていうくらい絵に描いたようないい男で面食らったけど、読み終わって作者が女と気付いて納得。なるほどね。

 それにしてもヒーロー活劇のアニメみたいな話で、いろんな事件やら騒動やらが起きるのに、悪い人間と言うのが一人も出てこない作品だった。本当に一人も出てこない。敵役で表向きは悪ぶってるけど本当はいいやつみたいな。どうなのこの生ぬるさ。一見すねに傷があったり、後ろ暗い過去をしょってそうに見えるんだけど、開けてみれば聞くも涙、語るも涙みたいないい話になって終わる。誰も悪い人はいない。みんな赦されている。簡単に言うとお涙頂戴的なオムニバスだった。

 主人公のお人よしと言うか、度を越したおせっかいというか、なのには閉口したけど、多田にしろ、行天にしろ出てくるキャラクターがみんなよく書けていた。挿絵があるのにもちょっと抵抗を感じたけど。ライトノベル出身なの?この人。
 行天で続編でも書くつもりなのか、行天の家族観についてはついに触れられずに終わっていた。最後、あれだけ「知りたいんだ」と言っていた彼の気持ちが何処から来るのか分らずじまいだった。単に多田がずっと言いたかったことを言って清々して終わってしまったような気がする。個人的には少年だった頃とは全く別人のような変化を遂げた行天の過去の方が気になったな。
 またかなりドラマも軽い。持ち上がるイベントはみんな相当にでかいんだけどその事件の核心に迫ったりすることはない。物語は色々なイベントの上を滑っていくだけ。希望も未来も美貌もある女子高生が実の父親にセックスを強要されてて、それを理由に母親もろとも殺してしまっても、物語は真実の周りをぐるぐる廻っているだけ。彼女が背負わされた過去とか、それを振り切るために彼女がしてしまったことの重大さについては全く触れられない。どんなにスキャンダルな事件が多田と行天の目の前で起きても、果ては実際に巻き込まれたりしても、そんなのはみんな日常を彩る素材に過ぎない。なんかてきとー過ぎないか?と思わなくもない。

 話やキャラに深みはないけどその分どたばたコメディ並みにドラマはある。これってきっと月刊誌の連載だったんだよね。項数も決まってるだろうしドラマの展開だけを追っていくなら、物語の厚みとか深みで言えばこれが精一杯だろうなと思う。そう考えると、よくハルキは「ねじまき鳥」みたいた重いのを連載なんかで書いてたな。しかも、あんだけ読んだあとでもどこにも連れてかない落ちのない話を。

 この作品、誰かがドラマにしそうだな…。

まほろ駅前多田便利軒


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