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「バーン・アフター・リーディング」 [watching]

 観る前から相当ひどい映画であることはなんかいろんなところで書かれていたので多少の心構えはしていたものの、わざわざ日比谷くんだりまで出てきて観るんだから、ほんのささやかでいい、その労に報いるくらいの良さが欲しかったが、クライマックスで丸腰の相手の背中に容赦なく銃をガンガン打ちまくるジョン・マルコビッチの非情さにも等しいほどの最低ぶりだった。
 どんだけ人生に余裕があったらこんなクソ映を金と時間をかけて作ろうなんて気になれるんだろうな。まあみんな好きで出してる金と労力だから人にとやかく言われる筋合いはないとは思うんだけど、それにしたって、それをお金払って観る人がいるわけだからさ。ましてや、アカデミー賞の常連たちが制作やら、出演やらに名前を連ねてるんだから、それなりの良作を作るのは影響力のある著名人の社会的責務と言っても過言じゃないと思うけどね。

 この作品が描こうとしているのは「ファーゴ」に似てる。というか、同じだと思う。おそらくそれがこの兄弟の世界観なんだろう。プログラムに使ったライターもとんだ恥知らずで、「ファーゴ」で使ったのとまんま同じコピーを使って語ってる。プロならもっとクリエイティブな仕事しろよ。「ファーゴ」のコピーは「人間はおかしくて、哀しい」だったと思うんだけど、このライターが使ったのは、「愚かで、おかしくて、そして悲しくて」。評の中で「ファーゴ」との類似性とか、作品を持ちだしてなんか比較した上でオマージュ的に使っているならまだしも、評の中には「ファーゴ」のファの字も出てこない。こいつ、明らかに観てないな。観てないなら書くなよ。こんなんで仕事になってお金もらえるなんて、ぬるくていいねえ、映画ライター。
 最近ほんとに好きで書いてると思わせるライターのプログラムに当たることが珍しくしばしばあったから、こんな素人仕事みたいなのに当たると結構腹が立つ。ましてや単館映画のプログラムで、こんな体たらくなもん作りやがって。単館映画なんてよっぽど好きでなかったらわざわざ見に来ないわけでしょう?観に来るファンの濃さを考えたら、広く浅く単に口当たりさえよきゃっていう全国展開の作品よかよっぽど気合い入れて作るべきだと思うけど。もっといい仕事する人が他にいくらでもいるだろうに。

 この作品で一番の見どころは、冒頭でも出したけど、ジョン・マルコビッチの観てるこっちが縮みあがってしまうような非情さだった。あんなにストレートにおっかないマルコビッチは久しぶりだった。あの盲目的な狂気が私に向けられたものでなくてよかったと思うくらいにおっかない。大体、バカなくせにキレやすいなんて、もう手の施しようがないよね。なんか、そんな人は生きてるだけで迷惑な気がするけど、そんなんが国の重要機関で重職についていると言う日常。空恐ろしい。
 で、最後同僚に片思いの元司祭のおじさんが丸腰で逃げて行く背中に容赦なく斧を振り下ろす様子をなんの演出もなくただ撮っていると言う姿勢がまた恐怖感を煽って私は好きだった。あのなんの演出もない虐殺シーンはごく控えめに言っておぞましい。「ファーゴ」で人肉を芝刈り機だかなんだかでミンチにしているシーンを彷彿とさせるよ。
 なんの演出もないからこそ際立つ狂気。マルコビッチのおっかなさを十二分に引き出すことに成功していると思う。しかし、こういう恐怖は映画だからこそ楽しめる物だよね。ほんとに。
 プログラム読んで知ったんだけど、マルコビッチは最近製作の方にも手を出しているらしくて、それ自体は別に驚かないんだけど、お金あるだろうし、お金のある俳優は大抵製作に回りたがるものだから、けど、意外だったのは、手がけてる作品にティーンエイジャー作品が多いってこと。「JUNO」とか、「ゴースト・ワールド」もそうなんだって。どっちもインディーズ系作品だけど、評価は高いので、遊びで手を出しているんじゃないんだなと思って改めてこの人の映画に対する熱意に感心した。「リバティーン」とかね。「リバティーン」は残念ながら観れてないんだけど、私は観たいと思っていた作品だから、マルコビッチの作品選びの視点にはかなり信頼がおけるんじゃないかと思った。
 しかし、CIAで重要なポジションについていたような機密情報のエキスパートが、人に見られたくない情報をCD-Rに焼いて外に持ち出せるようにするってどういうこと?そこのくだりには何も説明がないのよ。それが腑に落ちなかった。そこの経緯こそ描いてくれなきゃマルコビッチの頭の悪さは観てる人に伝わらないんだよね。結局あれだって、その後みんなが「お前がジムで落とした」って言ったからそうなのかなって状況になってるだけで、実際にどういう経緯をたどってCD-Rなんかに焼いて、焼いたものを外に持ち出して、それだけをジムのロッカーに置いてきちゃったのかがそっくり抜け落ちていた。手抜きにもほどがある。ちょっとこんな雑な仕事は他では見たことないな。

 不愉快だったのは、ジョージ・クルーニー。こいつってほんとこの兄弟のミューズなんだな。「オー!ブラザー」でのクルーニーは確かに好きだし、作品としても完成度が高いと思うよ。でも、こんなに大事にされちゃって。なんか納得いかない。そこまでかわいがんなくてもよくない?観終わったて最初に、「これってこいつの映画じゃん」って思うくらいクルーニーの映画になってたよ。
 そもそもこの顔中ヒゲだらけのおっさんがこんなにモテるという事象自体が、ジョン・マルコビッチの狂気以上に気持ち悪かった。みんな、その人は最悪だって気が付いて。ティルダ・ウィンストンみたいなインテリ女がクルーニーみたいなピーマン頭に惹かれるってどういうこと?そんなにセックスがすごいの?体だけが目的なら何もわざわざ結婚しなくたっていいじゃんか。と、ずっと思いながら画面を見ていた。ベッドシーンのないのが幸いだった。そんなのあったらちょっと耐えられなかったと思う。兄弟自身は作りたかったんじゃないかと言うのが私の予想。だって、その方が変態さをアピールできるもんね。多分その欲求をDIYのあのヘンテコな機会に託したんだろうなと言うのが私の読み。あれで十分うんざりさせられた。もう二度と観たくない。

 ブラッド・ピッドはこの役者の中ではすごい存在感が薄くって、思わず同情した。図らずしも大した役者でないことを露呈した形になっていると思う。「白の海へ」がおじゃんになったから、代わりになる仕事をしたかったと言うのは分かるけど、作品は選ぶべきじゃなかったのかな。ブラッド君。別にこれは今更君でなくてもいいよね。どんなふうに口説かれちゃったんだか知らないけどさ。でも個人的にはコーエン兄弟の仲のブラッド像がこんなんで非常に好感が持てた。ブラッドの仕事やブラッドと言う人をよく観察しているなと思った。本人はかなり腑に落ちなかったらしくて、それが演技の切れの悪さにも繋がっていると思うんだけど、、私にいわせりゃそんな役以外、君にぴったりくるのはないと思うけどね。今も昔も。あんまりコーエン兄弟が描くブラッド像が頭悪くてうっと―しいから、早く死んでくれと思いながら観ていたよ。ブラッド・ピットの「白の海へ」は、それはそれで観てみたかったとは思うけどね。時節柄、制作できなくてもしょうがない。まだ少し先でもあの役は出来るんじゃないかな。

 私がこの映画で一番好きだったのは、CIAの上層部がこの一連の事件に関して不可解そうに会話するシーン。一番観客寄りな視点で、あの場面に来るとホッとするくらいだった。J.K.シモンズは私の好きな俳優の一人。「スパイダーマン」で好きになって、コーエン兄弟の作品にもこれで何作か目だから、同じく気に入られてはいるんだろう。キャラにそれほど幅はないかもしれないけれど、味のある俳優さんだよね。

 フランシス・マクドーマンドは大変な人を旦那さんに持っちゃったなと同情する。あんな役は確かにちょっと他の人には頼めないもんね。

 終わった時には心底ほっとしたよ。女遊びがバレてめそめそするクルーニーなんかとんでもなくうっとーしかったし、マルコビッチによる不毛な殺戮が始まった日には早く終わらしてやってくれと懇願したい気持ちになったまさにその絶妙なタイミングで、J.K.シモンズなど良識ある人々によって、くだらない茶番劇に終止符が打たれ、とトカゲのしっぽを切るみたいにズドンと作品の幕が落ちる。
 それがこの作品に用意された救い。終わった後彼らがどうなったかなんて考える余韻を持たせる余裕など全くないまま、劇場をそそくさと後にさせられるなんとも不愉快な一作だった。

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