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「ハリガネムシ」 [reading]

 あまり言いたくはないが、やはり人間には性質としての品格があるということを考えさせららる作品だった。経済的な問題ではなくて、人としての品位が下流だとかそう言う話。貧しくてもつつましく、品性清く正しく、誰にも恥ずべきことなく生きている人は大勢いる。もとい、少なくないはず。だから、経済的な豊かさが必ずしも人間の品位を格上げするものじゃない。むしろ裕福そうな人間にこそ下劣な人間は多いはず。でなきゃ、世の中はいろんな意味でもっとまともだったろうと思う。

 この人は、私が思っていたよりも年配の人だったんだけど、ただそれを思わせない文体が更に以外だった。表現力っていうか、描写力って言うか、確かにこの人の文章には、年の功なのか、力があって、読んでて安心感が持てるんだけど、如何せん取り上げるテーマが…。ひどい…。これなんて言えばいいんだろう。下劣?ちょっとピンとこないんだけど、大体この吉村萬壱が好んで描く世界観自体が理解できないので表現しようがないと言うか。

 つつましく、少なくとも周りから浮かない程度に普通に生きていた高校教師の転落していく人生の様が生臭いまでに描かれている。文章にはちゃんと骨があって読み応えがあるのに、はっきり言ってそんなことには一切関心が行かないくらい、ドラマ自体は顔を背けたくなるような代物だった。私の受けた印象をそのまま言葉にするなら、「腐っていく」。そんな感じだった。この文庫にはもう一作品収められているんだけど、そっちはもっとひどい。醜い。とにかくそんな印象しか湧いてこない。
 類は友を呼ぶって言うけど、どちらの話も、醜い人たちが寄ってたかってドラマを更に醜くしていくという工程をたどる。どうしたらこんな生き方が出来るのかと、好んでするのかと、顔をしかめないわけにはいかなかった。これは堕落とかじゃない。そんな高貴なもんじゃない。最初から腐敗している何かだし、既に腐敗しているんだからよくはならない。

 そんな人間の集まりのドラマだから、性描写も尋常じゃない。文庫の帯から私が期待したのは暴力的な残忍さだったけれど、そう言うんでもなく、単純に言うと「エログロナンセンス」に尽きる。残忍さなんて気が付かないくらい、醜い性癖が作品全体を貫いている。この話の時代設定もちょうどそんな時期じゃないかと思う。帯には「残酷」がどうとかといっていたけれど、この性に対する卑しさ、醜さ、その汚濁とも取れる欲望がこの作品の、もしくはこの作家のテーマなのではないかと思った。これはどう考えても、読者に不快感をもたらすことのみを目的として書かれているとしか思えない。そんなの芥川と言うより、江戸川乱歩賞にこそ相応しいんじゃないの?歪んだ性癖をのみ生存本能としているような卑しい輩たちがひしめいているんだから。乱歩と違うのは、出演者たちがその卑しさを社会的な身分に隠しているかどうかと言う違いに過ぎない。

 主人公がカマキリをなぶりものにする場面や、職場の同僚の一挙手にいちいち動揺する様子を読む限りでは、確かにしっかりとした文章を描く才能を感じるんだけど、如何せんテーマが…。読み終わって正直気分悪くなった。こんな本を買ってしまったことを後悔したくらいだったよ。
 以後この人の作品はどんなことがあっても極力避けて生きていきたいと思う。
 
ハリガネムシ (文春文庫)


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