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「パラレル」 [reading]

 まあまあ、思ったよりも悪くないって言う程度で、どうしてもなんか気持ち悪いという生理的な不快感は最後まで拭えなかった。
 ただ、後書きに引用されていた長嶋自身のコメントも踏まえると、多分これは長嶋にしてみれば実験的な作品だったんだろうなと思う。なんとなくこの本のあらすじを垣間読むだけでも予想できたんだけど、実際にページをめくってみて日付と時間が書いてあったりするのを目にしたら、思わずみなかったことにして先に進んでしまったよ。

 冒頭から下なネタをしつこく披露されてかなり引いた。なぜ?始終風俗と性欲の話が出てくるこの作品は私にはとてもえげつない印象しか与えなかった。って言うか正直うんざりだった。皆男ってこうなのかなと思うとほんと不思議。それで離婚で傷ついたなんて、妻に裏切られただなんてよく言うよ。女を見て「まあまあ」だと自分の事はさておきランクを付けて、「性欲用」と言うその行為は完全に処理だ。それでいて処理中にゴムが取れちゃったりすると、次の生理が来るまでびくついて生活してる。お前どんだけ意気地がないんだよ。あきれて開いた口がふさがらなかった。それだから、この気分屋でなんか躁鬱っぽくも見えるつかみどころのない浮気妻ともお似合いだなと思った。読み終わって思ったのは、この浮気妻はきっとこの先も浮気を繰り返すだろうし、この意気地なしは「津田」のフラレた理由がそうであるように「青」にフラレるに違いない。

 最後、主人公が「青」とくっついたのは意外でもなかった。「青」と初めて会った時の描写で主人公が「青」に惹かれているのは分ったから。ただ、「青」的にこの意気地なしじゃ役不足だから結局別れるんじゃないかなと思った。けど、「青」は私も気に入った。特にアオイって名前が。それにしても長嶋の女の好みは分りやすい。きっと自分が主人公みたく意気地なしだからこういう強面な女性に惹かれるんだろうな。それでいてでも長嶋の描く主人公たちは決して芯がないというわけではない。むしろ、意気地はないのに頑ななまでの芯があって、その頑固さは当然のように偏っていて、周りの人間にしてみれば結局協調性がないだけにしか映らない。それでも本人はわかってもらえなきゃそれでいいと涼しい顔だ。そう言う人間を私も実際に知っている。これがまたイラつくんだ。

 話の筋として一番気になったのは、結局奥さんの心変わりの原因を掘り下げないままだったこと。二人で散々話し合ったと言うんだから、それを披露してなぜ奥さんに呆れられてしまったのか書いてもよかった。心身を失調気味だと人づてに聞かされるくらいなんだから、「僕」の知らなかったドラマが「奈美」にもあったはずで、それを知らないでいられたわけもないと思う。けど、別居した後で、それとなく、ではなく、あんなふうに見え透いた態度でよりを戻そうとする姿にはちょっとぞっとした。ましてやそれを猫の性質に並べて語られるなんて私としてはちょっと不愉快だった。今になってみれば、わざわざ神経衰弱に陥る選択をしてまで離婚したのにその後も当然の顔をして元夫の新居を訪れる元妻は「夕子ちゃん」の「長い長い別居状態にある」人の下地になってるんじゃないかと思う。

 プロットとは関係なくこの作品で最も気になったのは、男ってそれしか考えられないの?ってこと。これ本気?これが普通?別れちゃったらさ、それがどんなに未練たらしい醜い別れ方だったとしても、その半年後には自分の股間のことしか考えられなくなるような男になっちゃうんだろうか。とにかくこの男は、自分のこのメンタル的なまとまりのなさとか、社会とコミットできてない生き方はともかく、誰か、誰でもいいからととにかく女の子とくっつくこと、関係性を作ること、セックスのことしか頭になかった。なんだそれ。人間暇になったらそんなことしかやることないのか?別に出家しろとかなんかそんなことを行っているんではない。暇をもてあましてるからって、得るものの少ないカルチャークラブに行けとか、資格を取れとかなんか、そんな取り敢えず実用的に見えてその実中身は大して入ってないみたいなものに形だけでも身を沈めてろとかそんなことは思わないし、むしろそんなんだったらやらなくていいと思うけど、それにしたってだよ。なんでこんなに女のことで頭がいっぱいなの?頭おかしくない?女と見れば瞬時に採点してレベルを弾き出す。その手の会話を電車の社内で何度聞いたことか。でも聞くたびにやっぱり耳を疑う。お前ら一体なにもんだ。どの面下げて人にランクなんかつけてんだ。虫唾が走るとはこのことだよ。あんな人のクズみたいなのが人の何を採点してくれてんねんといつも憤る。

 更に不可解なのが、なぜ主人公は風俗に走らないのかということ。風俗なら利害が一致してるから、離婚して奥さんもいなきゃ、彼女もいないんだし、何も問題にはならないだろうと私は考える。この点に関しては人でなしの津田の方が仁義ってもんを心得ているような気すらしてくる。津田の間違っているところは、商売女に本気を男求めるところ。みんな仕事ですから。なぜ彼女たちがあんたの私的な欲求に応えなきゃならん?さらさらないよね。と思うんだけど、律儀に応える女の子が実際にいるから驚く。いやぁ、人間本当は何考えて生きてんだか分ったもんじゃないよね。津田が風俗嬢相手にすることを、主人公は一般人相手にする。犯罪だろ。それもどう転んでも自分が「損」をしないように、(誘ってる時点で実は既にバレバレだっつー)下心を相手に見透かされないように、色々散々アホほど無意味な考察のような計算をした挙句にだ。食事に誘って、一回目はもうカチカチになってるのを我慢して、2回目には当然のように行為に及ぶ。デートに応じた時点でどう考えても女の方は了承済みなんだから1回目を我慢する訳が私には分らなかった。なんのかっこつけ?アホか。で、愛のないセックスを後悔している話す舌の根も乾かないうちうに、翌朝目覚めたベッドの中で昨夜の思い出しながらオナニーをしようとする。脳みそ腐ってんじゃないの?で、行きつけのスナックで好みの女を目にして再びその贖罪にも近い反省の念が湧き上がってくるものの、その気概をすっかり棄て切ってやはりその「まあまあ」の女と2度目の行為に及ぶ。開いた口がふさがらないじゃんか。こんなんで何をまじめに語られても私に響くものとかもう一切ないんですけど。きっとこれ男の人の読むものなんだろうな。私が読んでも分らないようになってるんだよ。

 そもそもがこんな浅ましい男のあの奥さんは一体どんな箍(たが)だったのだろう。とても元奥さんとの音信が半日途絶えたのを気に揉んで鼻水たらして泣いた人とは思えない。それともこの薄情な奥さんの仕打ちがこの社会不適合者の心を更に殺伐としたものにさせて、ここまで堕落させてしまったんだろうか。否、これがこの男の本性だったんだろう。「まあまあ」の女とのデートに見せる余念のなさは一夜漬けなんかじゃない。明らかに経験がものを言ってるもんだった。しかし、ろくな経験を持たないんだな。

 この全編余すとこなく下世話なネタを撒き散らされた話の一番の罪は、私を悲しい気持ちにさせたことだった。男の人ってみんなこんななのかなぁ。それとも私がマイノリティなのか。

 もーーー、この話めっちゃ不愉快だった。
 でも「アオイ」って名前は気に入った。なにか特別意味のある名前だとは思わないけど。

パラレル


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