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「風に舞い上がるビニールシート」 [reading]

 このタイトルを見て思い出したのは、「アメリカン・ビューティー」に出てくるオタク少年が路地裏に風が吹きだまってコンビニ袋を舞い上げるのをビデオに撮ってるシーン。彼に惹かれる女の子が「なんでそんなの撮るの?」って聞くとオタク少年は簡単に「美しいから」と言ってのける。このタイトルはその場面を思い起こさせた。

 この本がオムニバスだと言うのは帯に書いてあったので分っていたんだけど、んーーー、これのどの辺りが直木賞だったんだろう?「鐘の音」???こういうオムニバスの評価ってどうなってんだ??
 まあいい。「鐘の音」は面白かったよ。仏像オタクが出てきて。そのオタク度合いの狂気じみたところに凄みを感じた。なんたって憧れの八手観音様にヌイてもらう夢を見るくらいだから。それも相手は8本も手があるもんだから、「これほどの愉悦をこの世で味わえるはずがない」というくらいの快感を得て、その仏像オタクはその観音様と「たしかに一つになった」と思い込む。勘違いですから。世間のしがらみを振り切ってまで仏と共に生きると言うわりには君と仏さんの関係は随分生臭いもんなのね。一夢、ニマス、三本番って言葉を知らないのか。まあ、私も最近人から聞くまで知らなかったけど。しかし、この観音様にあの手この手でいじられて「あられもないよがり声を上げ」てるところを想像するのはかなり笑えた。
 読んでて、相当勉強したんだろうなと思った。もしくは作者自身がそもそも仏像オタクなのか。物語のクライマックスで職人同士が関心しきりになるところなんて読者はまるで置き去りだ。何がそんなにすごいんだか、意外なんだかさっぱり分らない。それでもこの話が一番よく書かれているなと思った。ただ、オチがちょっと安っぽかったが。

 他の話はなんだかみんな私の心には響かなかった。どれも前向きないい話なんだけど、ちょっと画一的で、なんか優等生のおせっかいみたいな話ばっかでつまらなかった。つまらないというか、違和感を覚えたと言う方が近いか。
 例えば、「器を探して」。彼氏がプロポーズをするつもりでクリスマスイヴの予定を立てているのを知っていながら、自分に断れない仕事が入って会えなくなってしまったので彼氏がキレると、「自分こそ、昨日から何をやってるの?一体どれだけ私の携帯に電話やメールを入れたの?自分の仕事はどうなってるの?ねえ高ちゃん、人のことはいいから、自分の事をやろうね。」と言い放って携帯の電源を切ってしまう。私はこの光景に呆然とした。そんなのありなのか?彼氏がプロポーズをするって日に仕事を断りきれなくてデートをドタキャンしたのはあんたじゃん。「仕事はどうなってるの?」ってそれこそ大きなお世話だよ。いい大人なんだからどうにかなってるよ、そんなもん。「人のことはいいから」って人のことじゃないだろう、結婚は。二人の問題じゃんか。あんた頭大丈夫か?結婚したいの?したくないの?って言うか、あなた、この人が好きですか?ぞっとしたのが、この器を探してる人が結婚する理由。
 「高典との結婚を気にヒロミの攻撃が過熱するのか下火になるのかは定かではないが、夫婦と言う筋金入りの「安定」さえ手に入れてしまえば、もはや多少の障害で関係がぐらつくこともないと信じていた。」
 おいおい、結婚は接着剤かなんかか。全く勘違いですから。そんなに結婚って制度に信用があるなら「性格の不一致」みたいなあいまいな理由で離婚する奴いねーよ。大丈夫か?この作者はこのキャラをどれくらい肯定して書いてるんだろうなぁ。すごい心配なんだけど。さらに、それだけ相手の気持ちを損ねておいて、撮影用に使ったムース一つを手土産に買えれば機嫌が直ると思っている。んなわけねえ。そんなに単純な奴なら、仕事でデートができなくなったと言う時点ですっぱりあきらめてるよ。
 ただしこの男の方もかなり食わせ者で、二人の大事な日に嫌がらせで入れられた仕事を断る甲斐性のない彼女にこう言う。
 「冷静に考えれば弥生ちゃんにだって分るはずだよ、あの先生のそばでちょろちょろ動きまわってるのと、僕のそばでちょろちょろ動きまわっているのと、どっちの方が幸せかって。ね、いい機会だから今夜はしっかり考えてごらん」
 私だったら、こんなこと言う奴と結婚とか言う前に付き合わないと思うけど。どうでもいいけど、人の仕事に口出して辞めろとか辞めないとか、そういうことを全部話し合った上でプロポーズしろよ。
 そんな感じで、のっけの話のすみからすみまで不愉快な気持ちにしかさせられなかったので、2話以降はもう殆ど読み飛ばす勢いだった。だって、これがそういうキャラの設定で書いているんであって、作者の思惑と重なるところはないんだって言うなら逆にすげーなと思うくらい不愉快なキャラばっかだった。

 トリの「風に舞い上がるビニールシート」に到っては、最初の数ページと真ん中と最後をパラパラとめくってみただけで大体どういう話か想像がついた。アンジェリーナ・ジョリーとクライブ・オーウェンの出てる映画を思い出したよ。

 6話が6話、どれも「いい話」に落としてて前向きなメッセージを仄めかして終わるその画一さが逆に嘘臭いという印象しか残らなかった。別にハッピーエンドが嫌いってわけじゃないんだけど、もともとハッピーエンドにリアリティを感じにくい体質なので、それがこれだけ束になってこられると余計ダメだね。
 まあ、でも女性作家の描くキャラにこれだけ不愉快にな気持ちにさせられたのも初めてだったのでその点では面白い読み物だったと思う。

風に舞いあがるビニールシート


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